変わるメディア、変わらない想い ──「楽しい車の雑誌」のこれから

VOL.319 / 320

宮木 敏也 MIYAKI Toshiya

株式会社交通タイムス社 代表取締役
1965年生まれ、東京都出身。大学卒業後トヨタディーラー勤務を経て1989年に交通タイムス社入社。2020年より代表取締役。

HUMAN TALK Vol.319(エンケイニュース2025年7月号に掲載)
雑誌『CARトップ』や『WAGONIST』『af imp(オートファッション・インプ)』など、クルマ文化を牽引してきた交通タイムス社。その舵取りを担う宮木敏也社長に、原点から現在までをじっくり語っていただきました。

トヨタのディーラー から社会人スタート

 僕は1965年、昭和40年に生まれました。出生地は大阪ですが、育ちは東京。幼少期は埼玉の浦和、太田窪というところで暮らし、その後、新座市を経て中学からは練馬区石神井へ。高校は都立の大泉学園高校。1学年に8〜9クラスあるようなベビーブーム世代で、練馬には都立高校がたくさんありました。
 大学は拓殖大学の経済学部経営学科へ。文系の学びを終えて、最初に選んだ就職先は、出版社ではなくトヨタ系のディーラー「トヨタ東京オート」でした。当時「MR2」が好きだったという結構安直な理由で選んだというのもあるけれど、父からの「まずは外の飯を食ってこい」「社会人としての礼儀や営業を学んでこい」というすすめもあって、営業の現場に飛び込む決意をしました。
 営業としての1年間は、まさに人間修行。飛び込み営業、挨拶回り、納車対応と、とにかく現場で学ぶ日々でした。だけどその一方で、自分の中にはずっと「このままじゃない」という思いもあったんですよね。どこかで、「本当に自分がやるべき仕事は他にあるんじゃないか」って。

父のフォードコルセア 同じ車をほとんど見かけず、子供ながらに大好きなクルマでした

交通タイムス社への入社 ──家業に戻る決意

 そんな想いを抱えていた頃、ふと原点を思い出したんです。僕の叔父が昭和29年に創業(設立は昭和33年)したのが、交通タイムス社という会社。大阪で『交通タイムス』という業界新聞を発刊したのが始めでした。そして昭和37年に父が東京支社を立ち上げ、昭和43年に雑誌『CARトップ』を創刊しました。僕にとっては家の名前のような存在で、物心ついた頃にはすでに『CARトップ』が家のリビングにありました。
 休日には父が取材に出るのについていきました。環八でクルマの写真を撮るのを手伝ったり、中古車販売店でナンバープレートを隠すプレートをテープで貼ったり。そんな体験を通して、車と出版が生活の一部になっていった気がします。
大学時代にも、交通タイムス社でアルバイトをしていました。カー用品カタログの編集に携わり、写真撮影、キャプション書きや構成の手伝いなどを任されました。翌年にはドレスアップカー専門誌『af(オートファッション)』の編集にも参加。週末になるとカメラを持って、かっこいい車を探しに富士や日光へ。声をかけて撮影させてもらう、そんな日々がすごく楽しかったんです。
 だから、大学卒業から1年後、満を持して交通タイムス社に入社したのは、自然な流れでした。1989年、昭和64年のことです。

免許を取得して初めて乗った車。
母と共有していました

「売る」現場で学んだ 雑誌ビジネスの本質

 意外かもしれませんが、僕が配属されたのは編集部ではなく「販売部」でした。理由は単純で、「いくらいい雑誌を作っても、売れなければ意味がない」と思ったから。現場で学びたかったのは、〝作る”ではなく〝届ける”仕事だったんです。
 当時の雑誌販売は、人と人の営業勝負でした。本屋さんを回って注文書を手に、「何冊追加しましょうか?」「売れ行きどうですか?」と商談を繰り返す。コンビニへの販路拡大や書店チェーンとの交渉も、足で稼いで築いていくものでした。
 雑誌って、基本的に委託販売なんですよ。売れ残ったら返品されるから、返品率を下げて実売率を上げる工夫が必要だった。1冊売るより、2冊売れるように。3冊置いてもらって、2冊売れるように。地道だけど、これが出版ビジネスの根幹なんだなって思いました。
 この頃の書店営業では、店長さんや担当者との信頼関係がすべてでした。「この雑誌は売れるよ」と思ってもらえるかどうかが、部数に直結するんです。売り場の棚をどう確保するか、POPはどこに置いてもらうか。細かな調整の一つひとつが、実売部数に響いてきました。
 その結果、『カートップ』は実売42万部という記録を出すことができました。僕が販売を担当していた当時、まさに雑誌が最も元気な時代。車も元気、経済も活気があって、クルマ好きの読者が全国にたくさんいた。その期待に応える仕事ができているという実感が、僕の中に大きく残りましたね。 (以下次号、エンケイニュース2025年8月号に掲載予定)

CAR TOP創刊号

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